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ちょっとしたこと。

 
 
 今、兄貴と一緒に風呂に入ってきた。
 兄貴と一緒に入るの、久しぶりな気がするな。サヴェッラでも、ここのところ兄貴は忙しくて、一緒に入れなかったし。
 別に、オレが入りたくて入ったわけじゃない。
 たまにはお背中でも流しましょうかって聞いたら、じゃあ一緒に入ろうって兄貴が言うから…… それで。
 ただ、背中流してあげるついでだ。
 別に何て言うことないし、格別嬉しいとかいうわけでもないし。
 でも、うん。
 兄貴が髪を洗ってくれたの、嬉しかった、かな。
 そんなこと兄貴にしてもらうなんて、申し訳ないって言ったのに…… 兄貴、構わないって。
 オレの髪が綺麗だから、触りたいだけだ、って。
 兄貴は、オレの髪が好きだよね。
 よく、綺麗だって言ってくれるもんね。
 オレも、兄貴に髪撫でてもらったり、洗ってもらったりするのは…… まぁ、うん。
 嫌いじゃ、ないよ。
 ちょっと恥ずかしいけど、でも。
 兄貴と一緒に、久しぶりに風呂に入れて…… うん。
 嬉しかった。


 兄貴は今、ソファーでお酒飲みながら寛いでる。
 オレもどうだって誘われたけど、やめておいた。
 酒は飲みたい気もするけど、酷く酔ったりすると困るから、最近は自重してる。
 でも、お酌くらいはしてあげようかな。
 待ってて、兄貴。
 これ置いたら、今行きます。
 
 
 

兄貴が忙しい。

 
 兄貴は、今日も忙しい。
 オレもオレで用事はあったけど、ほとんど兄貴と別行動で、晩餐の席くらいしか兄貴に会えなかった。
 まぁ、サヴェッラにいれば…… これくらい、当たり前のことで。
 大聖堂に降りてったきり、夜になっても戻って来ないことだってあるし。
 それにくらべたら、ここなら部屋も一緒だし、一緒に食事も出来るし、兄貴と一緒に居られてることにはなるんだろう。
 だけど、せっかくトロデーンまで来たのに。
 大事な仕事で来てるのは、わかってる。でもさ、兄貴。
 少しくらい、オレとゆっくり話したりしても、いいんじゃないの?
 もちろん、そんなこと口には出せないけど。
 オレは法王様の弟君。だから、大人しくしてるんだ。
 兄貴のやることに、文句なんか言わない。
 もっと構って、なんて…… そんなの言えるはずもない。
 だから、我慢だ。
 我慢。
 サヴェッラで忙しい時の兄貴よりは、マシなんだから。

 明日あたり、ゼシカ達来るのかな。
 今日もちょっとソアに会う機会があったけど、あんまり話は出来なかった。
 でも、ソアのことは、周りのヤツから色々と聞けたよ。
 アイツ、頑張ってるみたいだな。
 近衛連隊長なんて、アイツに勤まるのかなって心配だったけど…… いつの間にか、すっかりそれっぽくなってるし。
 それに、ソアのヤツ、背伸びたか?
 前も伸びたかなって思ったけど、また少し伸びたような気がする。
 オレと並んだら、もうあんまり違いがないんじゃないかな。
 今度、もっとゆっくり話す機会があれば…… ちょっと、比べてみよう。
 アイツ、ホント頼もしくなった。
 勇者様らしくなった、って言うのかな。
 勇者になんてなりたくないよって、手紙に書いてあったこともあったけど……
 その辺、吹っ切れたんだろうか。
 押しつけられたイメージに、自分を当てはめていくのって、大変だ。
 オレも、よくわかる。
 オレだって、法王様の弟君なんて嫌だって、思った時期もあったもんな。
 だから、ソアが大変だったのも…… よく、わかる。
 でも、オレも吹っ切れた。
 アイツも、きっと、吹っ切ったんだろうな。
 じゃなきゃ、あんな凛々しい顔付きで笑ったり出来ないさ。
 ホントに、なかなかオトコマエになってきたよ、アイツ。
 
 

アイツが来た。

 
 今日は、最悪の日だった。
 だけど同時に、アイツにとっても最悪の日だったに違いない。
 アイツってのは誰かと言えば、当然、チャゴスのことだ。
 最悪の日だったけど、ちょっと面白い日でもあったな。うん、笑えた笑えた。

 今日は、サザンビークのクラビウス王がトロデーンにやって来た。
 オレの悪い予感通り、チャゴスのヤツも一緒だ。
 ミーティア姫とチャゴスの縁談はお流れになったとはいえ、トロデーンとサザンビークが大事な同盟国であることは変わりない。
 むしろ、縁談がご破算なんてちょっと気まずいことがあったんだから、これまで以上に仲良くしておかなきゃいけない。仲直り的な意味も含め。
 そういうわけで、法王マルチェロ様を間に立てるような感じで、トロデ王とクラビウス王が交流することになったわけだ。
 まさか、兄貴が仲介役なんてするようになるとはね。
 あの、王族とか権力者大嫌いだった兄貴が。
 それもこれも、昔の話か。
 今や、法王マルチェロ様は、世界の王たちを統べるお方…… ちょっとは寛大な気持ちになろうってもんだ。
 実際、法王になった兄貴は、少し丸くなった。
 ゴルドの就任式であんな過激な演説した割には、兄貴は本当によく世界のことを考えている。
 兄貴が世界の王や領主たちを監視しているおかげで、一部の暴君に苦しめられていた領民達は、随分救われたそうだ。
 人間、変わろうと思えば、変われるものなのか。
 警護役は、たまにこんなお世辞を言う。
 マルチェロ様が寛大な気持ちでいられるのは、弟君がマルチェロ様のお側にいらっしゃるからですよ、と。
 まったく、お世辞もいいところだ。
 オレは、別に何もしてない。ただ、兄貴の身の回りのお世話をちょっとしてるだけで。
 でも…… 確かに、兄貴は丸くなった。
 そのおかげで、今こうして、トロデーンの王とサザンビークの王がまた仲良くすることが出来る。
 兄貴がその間に立って、手を握らせているから。
 うん。
 そんな兄貴も、悪くないと思うな。オレは。

 で、そうそう、チャゴスだな。
 アイツ、やっぱりちょっと居心地悪そうな感じで来たな。縁談を断られた相手の国へ来るんだから、当然だろうけど。
 ミーティア姫と挨拶してる時も、精一杯かっこつけてたけど、内心ビクビクしてるのがバレバレだった。
 オレと挨拶した時も、またビクビクしてやがったし。
 その後ソアと挨拶した時なんか、あからさまに「ギク~!」って顔してたな。
 何しろ、あのインチキ試練の儀式に付き合ってやったヤツが、トロデーンの近衛連隊長なんかやってるんだから。
 一応体裁は取り繕ってたのは、さすが王子ってところかね。
 それでも、見てる方は可笑しくて可笑しくてしょうがなかった。笑い堪えるのに必死だったよ。
 ソアを見れば、ソアも心なしかぷるぷるしてる。
 オレの方をチラと見て、一瞬可笑しくてしょうがないって顔をした。そうだろうなぁ。
 ゼシカやヤンガスに、あのチャゴスを見せてやれないのが残念だ。
 今度二人が来たら、ぜひ対面させてやって欲しいね。
 その時は、ぜひオレを呼んで欲しいな。

 今日は色々あったけど、退屈しない日だった。
 兄貴も疲れただろうな。毎日、休む間もないくらい公務だし。
 今、兄貴は風呂に入ってる。
 出てきたら、ちょっとマッサージでもしてあげようかな。きっと、肩こっただろうから。
 何か、トロデーンに来てから、兄貴と一緒の時間が少ない。
 兄貴は夜まで王族や貴族達と付き合いがあるし、なかなかオレと一緒にいられないみたいだ。
 それはまぁ、仕事だし。仕方ないけど……
 でも、ちょっと、淋しい。
 一日くらい、兄貴と二人っきりになれないのかな。兄貴だって、きっと疲れてるよ。
 一日くらいお休みがあったって、いいのにな。
 ねぇ、兄貴。
 ここのベッド、何か慣れなくて寝にくいしさ…… たまには、一緒に寝たっていいよ、オレ。
 
 
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